大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃、奥へ」

 花奏はそう言うと、くるりと志乃に背を向ける。

 志乃は「はい」とうなずくと、静かに部屋に上がった。


 花奏の後について、薄暗く静まり返った廊下を歩く。

 途中庭の奥の離れが目に入り、志乃の心の奥をチクリと突き刺した。


 ――旦那様が、過去から動けなくなる程の人。


 花奏が亡くしたという身内が、どのような関係の人物なのか、志乃だとて気にならないわけがない。

 それでも今は真実を知り、自分が花奏を支える存在になりたい、という気持ちの方が勝っている。


 志乃はぐっと手に力を込めると、花奏の後を追って部屋に入った。

 障子を閉め振り返ると、花奏は書斎机の椅子に腰かけていた。

 志乃はそろそろと足を出し、花奏の正面に立つ。


「母親は無事、回復したそうだな」

 しばらく間をおいて、花奏がゆっくりと口を開いた。

「はい。おかげさまで、以前のように普通の暮らしができるようになりました。これも旦那様に、助けていただいたおかげです」

 志乃が頭を下げると、ふっと花奏の息づかいが聞こえる。
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