大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「その金は、俺からの礼だ。志乃はよくやってくれた。これからの生活の足しにすればよい」

 うつむいた志乃の耳に、穏やかな花奏の声が響いた。

 志乃は震える手で、胸元に当てた封筒をぎゅっと握り締める。

 志乃は潤んで今にも零れそうな瞳を持ち上げると、花奏の顔を見つめた。


「旦那様……最後に一つだけお聞かせください」

「なんだ?」

 志乃は涙を堪えるように、大きく息を吸う。

「旦那様が、なぜ死神と呼ばれているのか……教えていただきたいのです」

 志乃の声に、花奏は少し驚いたような顔をしていたが、しばらくして「そうだな」と立ち上がった。


「志乃、ついて来い」

 花奏はそう言うと、障子を開けて部屋を出ていく。

 志乃は袖で涙をサッと拭うと、花奏の後を追って部屋を出た。


 薄暗い廊下をゆっくりと進み、花奏が向かった先は仏間だった。

 中に足を踏み入れると、いつもと同じ線香の香が鼻先をかすめ、今朝志乃が供えた撫子(なでしこ)の花が、細くふぎれた花弁を可憐に開かせていた。
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