大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏がロウソクに灯をともすと、(だいだい)色の淡い光が、並べられた位牌をゆらゆらと照らし出す。

「ここにいるのは、皆この家で死んでいった者たちだ」

 志乃は顔を上げると、改めて一つ一つに目を向ける。

 こうやって見ると、確かに恐ろしいほどの数の人が、この家で亡くなったのだとわかる。


「怖いか?」

 花奏が志乃を振り返り、志乃は小さく首を振った。

「怖くはありません。ただ、私にはまだ死がよくわかりません。父が亡くなったのも、幼い頃でした」

「そうだな……」

 花奏はそう言うと、一番右奥に置かれた位牌をひとつ手に取る。

 それを両手で包み込むようにすると、そっと指で文字をなぞった。


「ここにいる者は皆、志乃の母親と同じ、肺を患った者たちだった」

「え……」

「身寄りもなく、療養所でただ死を待つだけの者。せめてもの救いになればと、この家に引き取った。死を迎えるその瞬間、誰かが共にいてやれるようにと……」

「そんな……」

 志乃は思わず息を止めると、じわじわと潤んでくる瞳をぐっと閉じる。

 そしてたまらずに、あふれる涙もろとも両手で顔を覆った。
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