恋をしてもいいのでしょうか?

運のつかいどころとは

高校二年になった春。


森村くんと同じクラスになったときは人生の運は使い果たしたと思ったし、二学期の席替えが行われた現在を実況するならば、森村くんが隣の席に着いて「あ、長野さんだ」と長野彩(ながのあや)を名乗って生きている私を認識し微笑んだのだ。


これは来世の運にまで手をつけてしまったとさえ思う。


もう恋とは呼ばないと決め、森村くんにはただただ憧れの感情しかない私としては、もっと他に運をまわすべきところがあるのではないだろうかと、神様に抗議のひとつもしたくなる出来事である。


かと言って、誰かに席を譲る機会も逃した私は森村くんに軽く会釈し、ぎこちなく微笑みを返して席に着いた。


幸いだと思ったのは窓際の席を引き当てたことだろうか。


森村くんの眩しすぎる存在感を隣に感じながら、私は彼から気を逸らすように窓の向こうを眺めることに徹しようとした。
そんな私のことを「長野さん」と森村くんの声がもう一度、呼ぶ。


「オレ、他と席変わろうか?」


席替え後のざわつきがまだ落ち着かない教室で、まるで耳打ちするように小さな声で森村くんがどこか心配そうに私に訊ねた。
どうやら私が彼に返した微笑みがぎこちなさすぎたようだ。


自分が隣の席では居心地が悪いのでは、といった気遣いだと受け取れるような優しい問いかけだった。
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