一緒に夢を追いかけて

闇の中のプロジェクト

闇の中のプロジェクト

龍太郎が抱える闇は、日々の仕事にも影を落としていた。山梨に赴任してから、彼は新たなプロジェクトを任されていた。それは会社の未来を左右する重要なものであり、失敗は許されない。しかし、彼の心の中には常に幻聴の恐怖と、美久との関係に対する後悔が渦巻いていた。そんな不安定な状態で、大規模なプロジェクトを遂行することに、強いプレッシャーを感じていた。プロジェクトチームは若手とベテランが混在しており、皆がそれぞれの役割をこなしていた。だが、龍太郎自身はその中心に立ちながらも、どこか他人事のように感じていた。何かを指示するたびに、心の中で「自分はこの仕事にふさわしいのか?」という問いが湧き上がる。彼は常に自分を疑い、責任の重さに押しつぶされそうになっていた。一方で、美久もこのプロジェクトに関わる一員として働いていた。彼女は真面目で優秀だったが、龍太郎に対する距離感を感じていた。彼女が山梨に来てから、龍太郎は以前のように彼女に接することはなくなり、業務上のやり取りにとどまっていた。それが美久にとっても不安の種となり、二人の関係はますます曖昧なものになっていた。プロジェクトの進行が佳境に入る中、龍太郎の頭の中には不安と幻聴が混ざり合い、現実と幻想の境界が曖昧になっていった。彼は夜な夜な、誰もいないオフィスで一人パソコンの画面に向かい、計画書を見直すことが増えていった。だが、画面の文字が霞み、頭の中で聞こえてくる声に集中できない。「これでいいのか?」「何か見落としていないか?」— そんな疑念が、彼を深い闇の中へ引きずり込む。その一方で、プロジェクトの進行は順調に見えた。チームメンバーは龍太郎の指示に従い、黙々と作業をこなしていた。しかし、誰も気づかなかったのは、プロジェクトの根幹に潜む問題だった。龍太郎が見逃していた小さなミスが、次第に大きな亀裂を生み、全体を崩壊させる危険性があったのだ。そして、ついにその日が訪れた。プロジェクトの最終段階で、不測の事態が発生し、すべてが一気に崩れ始めた。チームメンバーが焦り、対応に追われる中、龍太郎は自分自身の無力さに打ちひしがれ、ただその場に立ち尽くすしかなかった。幻聴がさらに大きくなり、現実を見失いかけた彼は、頭を抱えて崩れ落ちた。そんな彼に気づいたのは、美久だった。彼女はすぐに駆け寄り、震える彼を支えようとした。彼女の手の温かさに触れ、龍太郎は一瞬だけ現実に戻ったが、それでも自分の心の中に渦巻く闇から抜け出すことはできなかった。
「龍太郎さん、大丈夫ですか?」美久の声がかすかに聞こえた。しかし、その問いに答えることができず、龍太郎はただ闇の中に沈んでいくばかりだった。彼の苦悩と、交差する関係の中で、プロジェクトはどうなるのか、そして龍太郎自身がこの闇から抜け出すことができるのか。まだ答えは見えなかった。
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