父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
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雲一つない真っ青な空が澄み渡り今日一日は雨知らずと思われる朝、汚れ物と洗濯板を入れた盥を抱えた丑丸は、がたついた油障子の戸を引いて外に出た。
裏店に一つしかない井戸へ向かうと、周りを囲うように陣取って亭主や子どもたちが出した汚れ物をせっせと洗う女房たちの声が聞こえてきた。
「あのさ、あたしらからの線香代を全部持って夜逃げしちまった、おすみのことだけどさ」
「あぁ、腹が立つったらありゃしないねぇ。あたしらがみんなで、なけなしの金をかき集めて渡したってのにさ」
「ほんとだよう。恩知らずにも程があるってのさ」
「それに、一人っきりの倅を置いて出て行っちまうなんてさ。一体何処へ行っちまったんだろ」
「実はさ……あの晩、うちの亭主が木戸番でさ。木戸を締める間際んなって、見知らぬ男がおすみを迎えに来たっ云うんだよ。
そいで、二人で手に手をとって去ってったんだってさ」