父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 女房たちの井戸端話
「ええっ、そりゃあ本当かい」
「あっ、そいで倅を置いて出ていったってこったねぇ」
「おすみってさ、何処の生まれか知んないけど、男好きのするおなごだったもんねぇ」
「『柳腰』ってのかい、妙に色気ある立ち居でさ。うちの裏店の男連中だけじゃ飽き足らず、両隣の男たちまでもそわそわさせちまってよ」
「そういや、あんたの亭主もご執心だったねぇ」
「なに云ってやがんでぇ。あんたの亭主もだってのよ」
「やだよう、あんたら云い合いなんかすんじゃないよ。みっともねぇったらありゃしない」
「そうだ、ちょいと小耳に挟んだ話があんだけど……」
女房のうちの一人がふと思い出した。
「なんだってぇ」
「早う教えとくれよ」
「もったいぶって出し惜しみはなしだかんね」
とたんに他の女房たちが姦しく騒ぎ出す。
「わかってるってのよ。……実はさ、おすみは亭主と縁付くまで、なんと品川だか千住だかの宿で夜な夜な客を引いてたんだってよ」