父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

おいくは亭主や子のため裏店内で肩身の狭い思いをするのは御免(こうむ)りたかったゆえ、井戸端での浮世話に耳を傾けはすれども、おのれからはあまり話さぬようにしていた。

さすれども、さようなおいく(・・・)にも丑丸は洗濯板から目を移すことはなかった。

「力任せに擦ったってさ、井戸の水だけじゃあ汚れは落ちねぇんだ。()れどころか(いたずら)に布を痛めちまって寿命を縮めるだけだよ」


丑丸はパッと(おもて)を上げた。

米糠に含まれる油分に汚れが引き寄せられるなんて知る(よし)もない。そもそも(うち)にあっただろうか。

「糠がなけりゃ灰汁(あく)でも米の研ぎ汁でも構わねぇよ」

おいくは丑丸の手を取って、糠を入れた小袋を握らせた。

その手はまだ小さい。

「ねぇ、だれか寸足らずになって着なくなっちまった子の着物ないかえ」

おいくが女房連中に向かって訊いた。

着たきり雀の着物を洗っている丑丸は今、下帯一つのほぼ裸だった。

「あいよ、ちょっくら帰って取ってきてやるよ」

一人の女房が申し出て家へ戻ろうと振り返ったそのとき——

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