父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

如何(いか)なる(よし)があるにせよ、今住む場処から引っ越す折には今までの宗門人別改帳から外れることになるゆえ、必ず檀那寺で寺請証文を書いてもらってから出なければならない。

寺請証文がなければ「証」がないため、移り住んだ先の宗門人別改帳に新たに入れてもらえないからだ。

つまり、改められることなく外れたままとなる「帳外れ」——いわゆる「無宿者」に成り下がってしまう。

帳外れになると人扱いされぬようになり、職探しに難儀して住む場処にも事欠くようになることから無宿者と呼ばれるのだ。


丑丸に目を向ける。

下帯一つで右手(めて)に糠袋、左手(ゆんで)に洗い物を持ち突っ立っていた。

茂三はだれにも聞こえぬ声で呟いた。

「だけどよ……四、五年ほど前に移ってきたおめぇん()のだけ、預かってねえのよ」


故郷から出奔してきたゆえであろうか、父親は寺請証文を持っていなかったのだ。そして、母親のおすみ(・・・)も同様であった。

茂三は今よりもずっと幼い丑丸を抱えているのに親子三人何処にも行き場がないのは不憫だと思い、父親の人柄も見て店子にした。

されど、今となってはその情けが仇となった。

此度(こたび)のお改めで——丑丸は無宿者になる。
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