父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

しばらくして、茂三がおよねを伴って座敷に入ってきた。

盆を持ったおよねが茂三と丑丸の前に茶を置く。

今度は下がらずに、茂三の隣に腰を下ろした。

二人からはなんとなく改まった気配がして、丑丸は思わず背筋を伸ばし居住まいを正した。

「なぁ、丑丸。おめぇにとっちゃ(つれ)ぇことばかり続いてっけどな。
おめぇのような(もん)があっしの預かる(たな)に巡ってきたってのは、此れもまた『巡り合わせ』ってもんじゃねぇのかい」

丑丸はきょとんとした顔で茂三を見返した。

「お(まい)さん、たった八つの子にそないな回りくどい云い方したって伝わりゃしないよ」

江戸者は気が短い。およねがずいと膝を進めた。

「ねぇ、丑丸。子のないあたしらにゃ、なんだか仏様が結んでくだすった『ご縁』のような気がして仕方ないのさ。
——どうだい、あんた、うちの子にならないかえ」
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