父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「おめぇにとっちゃ寝耳に水の話だかんな。面喰らうのは仕様があんめぇ。あっしもよ、此れからの生き先のこったからゆっくり考えろって云いてぇ処だが……刻が待ってくんねえのよ」
寺請証文のない丑丸を養い子にするのだ。
家持の淡路屋に頼み込んで、方々に手を回してもらうことになるであろう。
その段取りのためにも、丑丸には一刻も早く決めてほしかった。
丑丸はぎゅーっと目をつぶった。
幼い頭の中で、せいいっぱい考えているように見えた。
茂三とおよねは逸る心持ちをなんとか抑えて、しばし見守った。
やがて、丑丸がぽつりとつぶやいた。
「……おいらにとっちゃ、地獄に仏のありがてぇ話だ」
茂三とおよねが身を乗り出した。
「おう、引き受けてくれるか」
「あんたを亡くした子の分まで大事にすっからね」