父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 ただし、御武家に限る
「へぇ……大したもんだ。立派な字だねぇ」
およねが感心しながら畳の上の漆喰紙を眺める。
固い字(漢字)はなく変体仮名のみではあれど、丑丸の手(文字)は其の歳の割に大きさにも強さにも偏りがなく、きちんと整った体を成していた。
公事師の真似事もしていた武家の父親が我が一人息子が先々で恥をかくことがないようにと、幼き頃よりしかと手ほどきしていた賜物だ。
「そいで……そいつぁどうする気でぇ」
皆目わからぬと云う顔で、茂三が漆喰紙を見ている。
丑丸は硯に筆を置くと、茂三とおよねの方に向き直った。
「せっかくの申し出を断り、かたじけのうござる」
かように告げて背筋をすっと伸ばしたと思った次の刹那、腰を折って深々と頭を下げた。
武家の父から授けられた「平伏」であった。