父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

「おいおい、おめぇは『御武家』だろ。あっしらみてぇな(もん)に頭なんか下げんじゃねぇよ」

茂三はあわてふためいて云った。

「そうだよ、頭を上げなって。そいでもって、もしなにか算段があるんっ()うんなら、あたしらにできることがあれば力になるからさ」

およねも云い添える。


ようやく、丑丸は(おもて)を上げた。

それから、茂三とおよねの顔を見て一つ肯くと、
「……では、()(うち)の前に張り出してもらいたい」
と云って、おのれが書いた「ととさん かかさん もとめたし」の漆喰紙を掲げた。


茂三の住む仕舞屋(しもたや)は丑丸が住む裏店(うらだな)とは異なり表通りにあるゆえ、人の往来が桁違いに多い。

其処(そこ)に丑丸は目をつけた。

張り紙で新しい父母を募ることなぞ前代未聞であるが、丑丸は真剣そのものであった。


「ただし、もし名乗り出てきたのが町家の者なら断ってほしい。
できれば——二親(ふたおや)とも武家を望む」

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