父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
茂三は重い息を吐くと袂を探って三徳袋を取り出した。
「ほんの少しばかりだが、亡くなった山口の旦那への線香代だ。明日からの暮らし向きの足しにしな」
母子へ向けてすーっと差し出す。
「そんな……家守さんには弔いの支度だって世話になったってのに……」
おすみが震える声で顔を上げた。
「家守にとっちゃあ店子は子も同然、遠慮は抜きにして取っときな、と云いたいとこだが……うちの裏店の連中からのせめてもの気持ちだよ」
男やもめの独り身であろうと子だくさんの家族持ちだろうと、宵越しの金を持たぬどころか持てない裏店暮らしにとってはこれっぽっちの銭でもかなりの痛手だが、明日は我が身かもしれぬ。
とても他人ごととは思えなかった。
弔いだって、感染る恐れのある流行病にさえ命を取られなければ、皆で死出の旅路を送れたものを——
「……ありがとござんした」
おすみは両の手で包むようにして三徳袋を捧げ持った。
隣で丑丸が板間に額をつけてひれ伏した。