父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
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御新造一行を巽に位置する陽当たりの良い客間に通すと、御新造を上座に案内して綿が詰まった一番分厚い座布団を勧める。
豈に図らんや武家の御新造を我が座敷に招くことになり、茂三は畳面を張り替えておいたことを心底安堵した。
少々張り込み過ぎたかと思っていたが、恥をかかずに済んだ。
おかげで井草の匂いがいっそう清々と芳しい。
一方およねは「先達て淡路屋から分けてもらった茶があった。確か京から上った珍しい煎じ茶だったはず…」と算段しながら茶支度のために下がっていった。
江戸者は見栄だけでおまんまが喰える。
「——そいで、御新造さん」
下座に腰を据えた茂三が口火を切った。
「すまんこってすが、あっしは淡路屋の旦那からなんにも聞かされてねえんで……不躾でござんすが、本日は如何な御用で来なすったんでさ」