父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「お嬢っ、なん云うことをっ」
たまらず、座敷の出入り口に座していた下女が声をあげた。
咄嗟に後ろの中間が抑えようとしたが、遅かった。
「無礼者、口を挟むことは赦さぬ。外へ出ておれ」
御新造がぴしゃりと制した。
すぐさま下女と中間は一礼して座敷から出て行った。
「お見苦しい処を。あれらは実家から婚家へ連れて参った者で、如何にも身贔屓が強く……」
そのとき、取っておきの京の煎じ茶を淹れたおよねが入れ替わるようにやってきた。
御新造の前に茶を置く。
「今お付きの人たちとすれ違ったんだけど、何があったんだい」
亭主の前に茶を置く。
座敷に煎じ茶の香りが広がる。
「まだ話の途中だ。……そいで、御新造さん」
茂三が話を戻して、すばり訊く。
「おめぇさんが今日来た御用ってのはもしかして——藩士の旦那との離縁を避けてぇために丑丸を引き取りてぇってことでやんすか」