父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 御新造さんの心積り
「……なんだか、ここんとこ『御武家』さんに頭を下げられるねぇ」
およねが苦笑いする。
丑丸に次いで二人目だ。
「さあさ、御新造さん、面を上げておくんなせぇ。そんでもって、茶でも飲んでおくんなましよ。珍しい京からの上り茶でさ」
「かたじけのうござりまする」
御新造は云われるまま湯呑みを手に取ると、煎じ茶を一口含んだ。
かすかな渋みとともに、えも云われぬ香りがすっと鼻に抜ける。
「御新造さんよ、悪りぃがあっしにゃどうにも解せねぇことがあってす」
茂三も湯呑みに手を伸ばした。
「おめぇさんは先刻、淡路屋の旦那に口止めまでして御家の者には知られとうないっ云っておいでやしたが……」
茶をごくりと飲む。
正直申せば、かような気取った茶の味はようわからぬ。ただ、渋いだけだ。
「——したら、丑丸を手前で引き取って、一体何処へ連れて行きなさるつもりなんでさ」