父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

「……御武家様、何のお構いもできゃしねぇが立ったまんまじゃなんだ、おい、およね。座布団っ」

見かねた茂三が口を挟んだ。

「あ、あいよ」

女房のおよねが弾かれたように立ち上がって座敷の角にあった座布団を取り、御新造の右隣に置いた。

一等ふかっとした座布団はすでに御新造に供したから二番目の物になるが仕方ない。

「かたじけない」

青井は妻の隣に腰を下ろして胡座をかいた。

およねは其れを見届けると、茶支度のために座敷から下がった。


夫に向き直った八千代は、滔々と告げた。

「旦那様の(もと)に嫁して三年、されど未だに子の一人も()せず、わたくしは婚家にとっても実家にとっても恥以外の何物でもござらぬ」

青井は懐手をして目を瞑った。

「どうか、わたくしを離縁して新しき嫁御を娶られ、今度こそ嗣子となる御子をもうけなされませ」

八千代は三つ指をつき深々と平伏した。


しばらくして、青井は目を開けて告げた。

「——相分(あいわ)かった」

「旦那様っ」
「お待ちくだせぇっ」

下女のおうめ(・・・)と中間の太七が声を揃えて叫んだ。

「黙っておれ」

すかさず一喝される。

落ち着いた口調ながらも青井に鋭き目で咎められ、おうめも太七もたちまちのうちに震え上がって項垂れた。

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