父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 父の秘密
襖が、ずっ…ずっ…ずっ…とゆっくりと開いていき、やがて丑丸の姿が見えた。
お下がりの古着ではなく寝間着で、顔色は紙のように白い。
若衆髷に結っていた髪は今はざんばらに下ろしている。
座敷の外では丑丸を止めることができなかったおよねが、青井へ供するために淹れた茶を手にしたまま突っ立っている。
座敷の内にいる茂三も為す術がなく、ただ固唾を飲んで見守るしかない。
丑丸は熱で倒れて以来、茂三夫婦の寝間の隣にある四畳半に寝かされて養生していた。
ようやく熱は治ったものの、食べる気力はまだ戻らず、育ち盛りの子どもらしくふくふくしていた頬が今やげっそりと面窶れしている。
されども、ふらつくおのれの体を励まして居住まいをきちっと正した丑丸は、上座に座する青井と其の妻に対面すると深々と平伏した。
「某、山口 政太郎が嗣子・丑丸と申す」
生まれて初めて、武家としての名乗りをあげた。