父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

「……おお、そなたが……」

青井の妻、八千代が思わず身を乗り出す。

「その姿……なんと、いたわしい……」

丑丸に駆け寄ろうとする八千代を、青井が鋭い声で遮った。

(おもて)を上げよ」


丑丸がぱっと顔を上げる。

すぐさま青井と目が合う。

凄まじい眼力であった。

広島新田(しんでん)藩主・浅野 宮内少輔(くないしょうゆう)を幼少の頃より刺客から命をかけて護ってきた「御前様の懐刀」の目だ。

丑丸は(ひる)みかけるおのれの心を励まして、ぐっと奥歯を噛み締めた。


「そちの父上は……山口 政太郎と云う名で間違いあるまいな」

念を押す青井に、丑丸はしっかりと肯いた。

「さすれば……父上は如何(いかが)した」

「先般、流行病(はやりやまい)により身罷ってござる」

丑丸はいっさい目を逸らすことなく、きっぱりと応えた。
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