父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
ところが、青井の方が耐えかねて丑丸からふっと目を逸らす。
「やはり、江戸に参ってござったか……」
そして、ぎゅっと目を瞑った。
「しかも、あと少し早ければ——否、広い江戸の町でかように『忘れ形見』に巡り会うことができたのも……やはり、兄上が天に出向かれたことによる采配でござろう」
平生はまったく心の裡を見せぬ夫がかように心を乱しているのを、八千代は初めて見た。
「旦那様、『兄上』とはいったい……」
「ああ、そうだな。国許を知らぬおまえには申しておらなんだが……」
青井は目を開けると、再び丑丸を——亡き兄が遺した「忘れ形見」を見つめた。
「実は兄が一人おってな。御前様の乳母の子として生まれた我らは、如何なる刻や処であれど、御前様に付き従ってお護りしてきた」
浅野 宮内少輔の乳兄弟のもう片方は、丑丸の父であった。