父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「……八千代」
青井は妻の名を呼んだ。
「今後、丑丸は青山緑町で暮らすこととなり、新たな母が必要となるが、其れでもおまえは離縁して町家で手習い所を開いて暮らしを立てると申すか」
青山緑町に広島新田藩の藩邸があるゆえだ。
「滅相もない。丑丸殿の母となりて青山緑町にて精進いたしとう存じまする」
八千代は三つ指をついて頭を下げた。
「それから、もう一つ——」
なぜか、青井は妻から目を逸らしつつ告げた。
「……昔なじみだかなんだか知らぬが、淡路屋の若主人には金輪際頼るな」