父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 母の行方
町の寄合の帰り、ついでに古巣である廻船問屋の淡路屋へ寄って話し込んでしまった。
すっかり陽の陰る頃となっている。
裏筋から表通りに出た茂三は、早速我が家である仕舞屋の方へ目を遣った。
すると、門口でなにやらおなごが二人揉めている。
もしや女房のおよねに何かあったかとあわてて足を早めると、おなごの一人が振り返った。
「あぁ、よござんした。家守さんのお帰りだ」
茂三が淡路屋から任されている裏店の店子のおいくであった。
「こないな往来で、一体どうしたってんだ」
茂三が訝しげに訊ねると、もう一人のおなごがおずおずと顔を上げた。
「——おめぇ……お、おすみじゃねえか」
数年前、亡き父の弟である広島新田藩の藩士が養親となり、青山緑町の藩邸へ引き取っていった丑丸の——母親である。