父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「運良く御武家の引き取り手があったから良かったってなもんで、お父っつぁんを亡くしたとたん、おっ母さんまで家を出ちまってよ。丑丸はあやうく無宿者になるとこだったんだぜ。
しかも、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代まで持ち逃げしやがって。
——今さら、どの面さげて出てきやがった」
茂三の剣幕に、おすみはただただ其の身を縮こませるばかりである。
「あたしはおよねさんに用があって来たんだけど留守でさ。もしかしたら行き違いになったんじゃねぇかって思って踵を返したら、門口の陰におすみさんがいたんだよ。
したらいきなり、家守さんに此れを返しといておくれって渡されてさ」
おいくは三徳袋を持ち上げた。
茂三には見覚えがある。
弔いの夜におすみに渡した線香代の袋だ。
「あの節はお世話になりっぱなしで、ほんにすまんこってす。……そいじゃ、皆々様どうかお達者で」
おすみは顔を袂で隠すと、くるりと背を向けた。