父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「あっ、待ちなって。せっかく家守さんが帰ってきたんだからさ。銭はおまえさんの手で返さねぇと」
おいくがおすみの手に三徳袋を握らせた。
そして、ようやくおすみから茂三へと三徳袋が渡されると、
「おいく、悪りぃがおよねを探してきとくれ」
「あいよ、入れ違いでうちに来てっかもしんないね」
おいくは小走りで裏店へと急いだ。
いくら暮れなずんできたとは云え、やはり門口で話していては往来の目につく。
茂三はおすみを中へ招き入れようとした。
されども、おすみは頑として戸口までしか立ち入ろうとしない。
「おめぇさん、暮らし向きは大丈夫なのかい」
受け取った三徳袋はずしりと重かった。
「……元いた処に戻りなんしたゆえ。おかげでなんとか抜けた廓言葉もすっかり元どおりになりなんしたが」
おすみは寂しげに微笑んだ。