父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 無一文で天涯孤独
「……とにかく、おめぇは家ん中に入りな。おい、およね」
茂三がさように告げて女房を顎でしゃくると、およねは弾かれたように持っていた桶と柄杓を三和土に置いて支度のために奥へ入っていった。
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仕舞屋の奥にある座敷に通された丑丸は、幼い体躯をさらに縮こまらせて正座していた。
「……さて、おめぇをどうするか、だな」
茂三は部屋の端にあった莨盆を引き寄せながら告げた。
亡くなった丑丸の父親は、大坂よりもまだ西にある藩に仕える御武家だったらしい。
そこまでは男が江戸に出てきて紆余曲折を経て此の貧乏裏店に流れ着いた折に茂三が聞いた話だが、なにぶん口数少なく如何なる経緯でお故郷をおん出てきたかは最期まで判らずじまいだ。
相対して、丑丸の母親は器量は良いがどこかぼんやりとして頼りなげで、気の強い御武家の御新造(奥方)にはとても見えない。
亡くなった亭主とは故郷から手を携えて出てきたわけではなく、江戸で知り合ったらしい。
されども、如何なる経緯で二人が夫婦になったかはやはり此れもまた判らずじまいだ。