父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
故郷の藩を飛び出して来たと云う山口は、どういうわけか大金を持っていた。
寝物語に尋ねてみると、
「養子の縁組を解かれたときの『手切れ金』ゆえ」
と嗤っていた。
だが、おすみを身請けするために使ったら、すっからかんになってしまい、御武家でありながらどん底の裏店暮らしをする羽目になった。
日当たり悪しくじめじめと湿気った裏店の片隅で板間の上に座し、
「子どもの頃は主君に付き従って百姓家に預けられていたゆえ」
と云って傘の張り替えや虫籠作りを器用にこなす山口の傍らで……
不器用なおすみは繕い物から始まり、浴衣、単、袷と順々に針仕事を覚えていった。
かような中で生まれたのが、一粒種の丑丸だった。