父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
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「おめぇさん、『なんし』っ云うことは……大見世の久喜萬字屋に身を寄せてんのかい」
吉原の廓の大見世には独特の云い回しがあり、中見世や小見世のような「ありんす」言葉はあまり使われぬ。
大見世は語尾に付ける言葉がそれぞれの見世で異なり、松葉屋は「おす」、扇屋は「だんす」、丁字屋は「ざんす」、中萬字屋は「まし」、そして久喜萬字屋が「なんし」と決まっている。
「弔いの夜、久喜萬字屋の男衆に迎えにきてもらいなんした」
其れを裏店の木戸番に見られていたのだ。
「なにゆえ吉原になんぞ……丑丸を置いてけぼりにしてまで……」
苦界と云われる吉原に——今は亡き夫に身請けされて出られた吉原に——自ら舞い戻っていくのが、茂三にはどうしても解せなかった。