父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「久喜萬字屋ではもう客は取っておらでなんし。わっちは針仕事をしとりんす」
吉原の妓たちにとって指先を傷つけるかもしれぬ針仕事は御法度ゆえ、おすみは久喜萬字屋のお内儀の伝手で住み込みのお針子をしていた。
お内儀にしても勝手知ったる元女郎のおすみは重宝だ。
「あの子は……丑丸は……こないな下賎なわっちの胎から生まれるには過ぎた子でなんし。
あの子は——御武家として生きなんし子でありんす」
「だがよ……」
茂三はおすみをじっと見る。
「丑丸が熱を出してこの家で三日ばかり伏せってたときによ、うわごとでさ、
『おっ母さん、なんでおいらを一緒に連れてってくれなかったんだよう』
っ云って啜り泣いてたんだぜ」
その刹那、おすみは膝から泣き崩れた。