父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
茂三は煙管を取り上げ、一番上の抽斗から出した刻み莨を丸めて雁首の火皿に置き、火入の炭火で焼べた。
「おめぇのおっ母さんが、腹を痛めて産んだ我が子を置いて出てったのも腹立たしいけどよ。
裏店の連中が身銭を切ってこしらえた線香代を根こそぎ持って行っちまいやがったのが、腹に据えかねるぜ」
そして、深く一服する。気を鎮めるためだ。
およねが盆に麦湯を乗せて座敷にやってきた。
「あんた、お父っつぁんを亡くした上におっ母さんまで逃げちまったんだってねぇ」
ますます縮こまっている丑丸の前に、麦湯を置く。
「先刻はいきなりだったんでたまげて大声出しちまったけどさ。堪忍しとくれよ」
丑丸はぶんぶんと左右に頭を振った。
「お前さん」
およねは亭主の茂三に向き直ると、麦湯を差し出した。
「こんな幼い子がたった一人で残されちまって……おまんまの支度やらおさんどんは誰がやるんだえ。
あたしゃこの子が不憫でならないよ。ねぇ、しばらく家で面倒見てやれないもんかね」