父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
🎏 ひとりぼっちの裏店暮らし
齢八つで、しかも無一文でたったひとり残された丑丸の裏店での暮らしが始まった。
いくら父親がかつて故郷の藩に仕えていた御武家であったとは云え、母親はどっからどう見ても下々の生まれで、丑丸自身は江戸の裏店生まれの裏店育ちだ。
ゆえに、生まれてこの方裏店以外の暮らしは知らない。
幸いなことに住む裏店と喰い扶持に関しては家守の茂三が当面の銭を用立ててくれた上に、女房のおよねがたいそう不憫がってちょくちょくおまんまをこさえて持ってきてくれた。
もちろん見て見ぬふりはできぬということもあろうが、幼い丑丸が見よう見まねの拙い手つきで竈を扱って、万が一でも火なんか出した暁には目も当てられない。
とならば 、御公儀の町方役人に責めを受けるのは裏店の世話役である茂三だ。
裏店を預かる家守にとって其処に住まう店子は我が子も同然、と見做されるゆえだ。