君との約束

平日の映画館


 平日の朝、
帽子を被り、メガネにマスク、
ラフな格好の男性が映画館の中に
入って行った。

 男性は、映画館の客席を見渡すもお客もまばら。
男性はニヤリと微笑み、一番後ろの席に着席した。

 一番後ろの席とはいえ、場内の席は各階に
百席ほどしかないコンパクトさが売りの映画館。

 薄暗い会場内で帽子を取る男性、
そう、それは紛れもない悠の姿。
 「よし、よし、お客が少ない。
 やっぱり、映画は平日の朝。
 それも、一番早い上映時間に来るのがいいよな~。
 ほぼ、いや、絶対にバレないし」
 と言うと、悠は足を組み、ポップコーンを口にした。

 悠が選んだ映画は、
もちろん、『夏の終わりに……』

 すぐに、会場内が暗くなり、上映が始まった。
悠がブツブツと呟く。

 映画上映の終りかけになると、
エンドロールが流れはじめた。
 悠は、作品の余韻に浸ると天井を見上げ、
 「季里也の野郎、いいじゃないか」と呟いた。

 悠が、視線をスクリーンに戻そうとした時、
悠の丁度右斜め前方数列前に目が止まる。

 「ん? あれは……」悠の視界にはいって
きたもの。

 座席からはみ出る、フワフワの綿あめ……
そして、アフロもどきの……
悠は立ち上がると、暗闇の中、その列に移動し席に座ると
横を向いて行った。

 「キヌコさん……何してんの?」

 悠の声を聞くと驚き横を向いた。
 「悠、悠さん……」と囁く女性。

 そう、女性の正体は、紛れもない
『キヌコさん仕様になった』唯……
変装して、映画を観に来ていたのだ。

 映画上映が終了した合図で
会場の照明が少しだけ明るくなると、
まばらな客が出入り口に向かって歩いて来く。

 唯は下を向き、悠は帽子を深く被る。
 観客が誰もいなくなったのを確認すると
二人は会場から出て行った。
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