君との約束

 二人は、通りに出ると全速力で
走り出した。

 「キヌコさん、なんか追われてるのに」
 と悠が唯の顔を見た。

 唯も悠の顔を見ると、
 「なんか、楽しいですね」
 と二人は互いの顔を見て笑った。

 数人の人から追われる二人。
 息も上がり限界に達した頃、

 「キヌコさん、もう少し頑張って」
 と言うと、悠が建物を指差した。
 息あがる唯が悠が指差す建物を見る。

 建物の前まで来ると、悠はニコッと笑い、
唯の背中を押して建物の中に入れた。

 悠は、そのまま全速力で建物の脇の方へ走り去った。

 自動ドアが開き悠から押された唯が
エントランスに入って来た。

 「えっと……」とエントランスに立ち尽くす唯。

 その時、
 「『キヌコ様』こっちです。早く」と声がした。
 声の主は、コンシェルジュの林。

 林が唯に手招きをする。
 唯は、林の元に走りカウンター内に入り込んだ。
 林は、カウンター奥にある控室に行くように
唯に言った。

 そう、ここは、悠のマンション、唯がエントランスに
入った時、カウンターにいた林がいち早く唯に
気づいたのであった。

 そして、自動ドアが再度開き、数名の人が入って来くるとロビーカウンターを目指し歩いて来るのが見えた。

 林は同僚に声を掛ける。
 同僚のコンシェルジュが駆け寄り、

 「あの……どうされましたか?」と尋ねた。
 数人の人が、
 「今、ここに人が入って来ませんでしたか?」
 と尋ねる。
 コンシェルジュが
 「さぁ、存じ上げませんね」
 などと言って対応をしている中、
カウンター奥より綿あめのような
アフロヘアの作業用の上着を着た女性が、
ほうきと塵取りを持って林と一緒に
出て来ると、二人でEVに乗り込んだ。

 コンシェルジュより、あまりにしつこいと
警察に通報することを伝えられた人々は、
諦めてマンションから出て行った。

 EVに乗ったキヌコさん仕様になった
唯が林に聞いた。

 「あの、その、さっき、
私がマンションに駆け込んできた時
『キヌコ』さんって……」

 「はい。言いました」

 「あ……あの、私……実は」

 「存じ上げていますよ。
 『キヌコ』さんが女優の『YUI』さんだと
いうことを……」
 林が優しい口調で言った。

 「そうでしたか……」

 「はい、ただし存じ上げているのは私だけですから
ご安心ください」

 EVが悠が住む部屋の階へ到着すると、EV前には
悠が立っていた。

 「キヌコ様、どうぞ……」
 と言うと林は、手を前に出し唯を案内した。

 唯が悠の隣に立つと、林は優しく微笑み
会釈をするとEVでエントランスに下りて行った。
 
 悠は、唯の顔を見ると、「俺の部屋に行こう」
 と悠が唯の手を握り自分の部屋に向かって 
歩き出した。
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