君との約束
『KINUKO』さんはおばあちゃん
「YUIちゃん、『RAIN』と対談するんだって?」
控室で唯に季里也が声をかける。
「うん。急遽決まったみたいで」
「ふ~ん、そうか。でもいいな~俺も対談したいよ」
「同じ事務所なのに?」
「そうだけど、それはそれだよ。
だって、五人ともカッコいいじゃん。
『男も惚れる男』っていうかさ……」
「そうなんだ」
「あ、そう言えば、唯ちゃんこの前
プロデューサーに怒っちゃったんでしょ?
みんな噂してたよ」
「怒ったっていうか、会話に季里也君を
入れてくるから……つい……」
「俺のことを入れてくるって?」
「彼氏、彼氏って、最近じゃ……
プロデューサーだけじゃなくて周りにいる人達からも
言われて、季里也君にも申し訳なくて」
唯の顔を見た季里也は優しく微笑むと、
「俺は、そのほうがいいんだけど。
どうせなら、このままつき合ってもいいくらいだよ」
と唯の頭に手を置くとそのまま顔を近づけた。
「季里也君、冗談はやめて。
今の、次のシーンのセリフだよね?」
と口を尖らせる唯。
「あれ~、バレちゃったか。
でも、俺は全然平気だからさ気にしないで」
と笑う季里也。
唯は台本を開くとセリフの確認を始める。
それを見た季里也、
「ねぇ、唯ちゃん。
その台本ケース物凄く大切にしてるよね」
「どうして? 急にそんなこと聞くの?」
視線を台本に落としたまま聞き返す唯。
「だって、
それ、初主演の作品の時からずっと使い続けてる
ヤツでしょ。
まあ、物はいいもんだとはわかるけど……
普通、女性なら、バックとかを最初に
手にすると思うんだけど。
唯ちゃんって、いつもまっ先にその台本ケースを
手にするからさ、よほど大切なものなんだろうな~って」
「最初に手に取る? そうかな?
でも、これは……私の宝物だから」
「やっぱりね。誰か大切な人からの贈り物なんだ……」
「うん、私を最初に『推してくれた人』
ファン第一号さんからの贈り物。
だから、その人のためにも頑張りたいんだ」
「ふ~ん、じゃあ、おばあちゃんのためにも
頑張らないとね」
「おばあちゃん?」
季里也の言葉に反応する唯、
「え……違うの? だって……その台本ケースの隅に
『KINUKO』って彫られてるでしょ?
それって唯ちゃんのおばあちゃんの名前とか
じゃないの?」
「あ~、そうだね。
KINUKOっておばあちゃんの……名前」つぶやく唯。
「そうか。じゃあ、おばあちゃんのためにも、
これからも一緒に頑張ろうね」
と季里也が言った。
苦笑いする唯。
数分後、
スタッフから呼ばれた二人は、撮影現場に歩いて
行った。