君との約束

お忍びで



 ライブ会場の熱気に包まれ、光輝く『RAIN』。
 五人が、激しく踊り、優しく口ずさむ歌声に、
会場のファンが酔いしれる。
 
 暗闇の中に浮かび上がる色とりどりのペンライト。

 彼等のすべてに黄色い声援とどよめきが起こる。
 「わぁ~凄い熱気! ほら、見て見て!」
 と興奮する女性。
 
 隣で帽子を深く被り、メガネをかけてる
黒髪のサラサラ ショートカットの女性
職業……女優。

 「ちょっと、千春、騒ぎすぎ……
目立つでしょ」と耳元で囁く唯。
 
 「え~? 何? 聞こえない~!」
 と興奮気味の彼女。

 彼女の名前は千春、
唯が芸能界に入る前からの大親友、
唯が『悠』を知るきっかけを作った張本人。
 しかし、千春はこの事実を知らない。
 もちろん、悠と唯の関係も。

 もともと、『RAIN』を箱推ししていた千春、
『唯の週刊誌報道』等で唯の『メンタル』
を心配した彼女が、『RAIN』のライブに誘ったのだ。
 
  大音量の中 唯が千春に尋ねる。
 「チケットよく取れたね~」
 「まかせてよ。私『RAIN』の古参だから」
 「そうだったね~」
 
 「ごめんね~、アリーナ前列だけど、
一番端っこだから……」
 「大丈夫~、そのほうが都合がいい。
  それに、暗いからわかんないし」
 
 「そう? じゃあ、この帽子取っちゃいな」
 と言うと千春は唯が被っている帽子を取り上げた。
 「え……ちょっと……」と慌てる唯。
 
 ニコっと笑う 親友の笑顔。
 唯もニコッと微笑むと、
『RAIN』が歌うダンスナンバーに合わせて
両手を挙げた。
 親友の千春との時間、忘れていた親友との時間。
 久しぶりに『YUI』が『上村 唯』に
戻れた時間だった。

 ライブも最高潮に達してきた頃、
メンバー五人が歌いながらそれぞれファンサを
するためにステージを動き回る。

「こっち来てくれるかな?」
 と興奮する千春。

「どうかな?」と答える唯。
 内心では……悠さん、来てくれないかな?
 と淡い期待を寄せる唯。
 
 そして、歌いながら、友が千春と唯の近くまで
やって来た。

 暗闇の中に反転するスポットライトの光、
ステージから見える客席も光を帯びて
見えにくい。
 ジグザクに放たれるライトの光、
時折見えるファンの顔を見ながら
ファンサをする『RAIN』のメンバー。

 唯と千春の近くに来た友、
ウインクをする片手で♡を作る。
その度に大歓声が起こる。

 「キャ~友……友~」と叫ぶ親友千春、
予想はしてたが親友の豹変ぶりに驚く唯。
 唯は顔を横に向け千春を見つめる。

 千春のボルテージが更に上がった。
「キャ~悠……悠……こっち向いて~」
「え……?」と悠がステージに顔を向けた
 唯の目の前に『RAINの悠』がやって来ていた。
 
 何も知らず歌を歌い続ける悠、ファンサをする
超人気者『RAINの悠』。
 暗闇の中から悠を見つめる唯、額から流れ落ちる汗、
キラキラした瞳、アーティスト『RAINの悠』、
誰もを虜にする彼の姿に唯はその場に立ち尽くす。
 悠を始めて見たあの日のように。

 その時だ、会場内のジグザクに反転したライトが一瞬、
唯と千春に当てられた。

 ステージ上の悠の視線が一瞬ある一点で止まった。

 ステージ上の悠、客席にいる唯……

 ほんの数秒間に起こった奇跡と再会の瞬間(とき)。

 「悠さん……」と呟く唯。
 
 悠は、唯を見てニコッと笑うと、片手でバキューンと
射貫くボーズをきめた。
 
「キャ~悠……最高!」と唯の声を
代弁するように大声を上げる千春。

 唯も満面の笑みを浮かべると、
「『RAIN』最高!」と叫んだ。
 
 唯の声が悠に聞こえたかどうか定かではないが、
それからの悠はいつも以上にテンションが上がって。
『RAIN』のライブは大盛況で幕を閉じた。
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