君との約束

『悠』の告白

 撮影から数日が経過した。
 「ストップ! 音止めて」心が言った。
 「悠、どうしたんだよ」良が聞いた。
 「ごめん、もう一回いいか?」

 久しぶりの『RAIN』五人揃ってのライブ
に向けたリハーサルが始まったのだが、
ダンスの振り付けを何度も間違える悠。

 「悠が間違うなんて珍しいな。
 どうした? 疲れてんじゃないのか?」
 と友が言った。

 「ごめん、ちょっと休憩いいか?」
 と言うと悠はリハーサル室から出て行った。

 「アイツ、どうしたんだろう?」心が言った。
 「大丈夫かな?」良も心配する。
 「え~と、え~と」と口ごもる翼。

 「俺、ちょっと見て来るよ」
 と友もリハーサル室を出て行った。

 リハーサル室が入るビルのバルコニーで風にあたる悠。
 「あ~、も~、だめだ」
 と頭を搔きむしる悠。

 「キヌコさん、完全に怒ってる。
 ラインも既読スルーだし電話も出てくれないし」
 と落ち込む悠。

 そこに、悠の後を追って友がやって来た。
 「悠……おまえ、何かあったのか?
 心ここにあらずだぞ」

 「いや、大丈夫だよ。ごめんちゃんと集中するから」
 悠の表情を見た友、
 「まぁ、言いたくないならいいさ」
 と微笑んだ。

 「あっ! いたいた」
 マネージャ―の江口がやって来た。
 「江口さん、お疲れ様です」
 悠と友が江口に挨拶をする。

 「悠、今日、夕方からのYUIちゃんとの撮影中止に
なったから。延期だ」

 「撮影中止? 延期って何でですか?」

 「YUIちゃん、今日朝、現場で倒れちゃって、病院に
搬送されたんだって」

 「え? キヌコさんが?倒れたんですか?」
 「YUIちゃん、忙しそうだったからな~」
 驚く二人。

 「で、キヌコさんは大丈夫なんですか?」
 と焦った様子で尋ねる悠、
 「キヌコ?」と江口が言った。

 「あ……いや、YUIちゃんは大丈夫なんですかね?」
 と言い直す悠。

 「ああ、検査も異常なかったらしいし過労だった
みたいで。
 本人の希望で、数日間自宅でゆっくり療養するそうだ。
 そんなわけで、悠、今日はリハーサル済んだら、
帰っていいぞ」
 と言うと江口はその場を立ち去った。

 動揺する悠を見た友、
 「なぁ、悠……さっき『キヌコさん』って言ってたよな?『キヌコ』って対談の時YUIちゃんが言ってた
『台本ケース』のヤツだよな? おまえ、やっぱり以前
からYUIちゃんと何かあるのか?」
 と悠に聞いた。

 友の言葉を聞いた悠、深く深呼吸をすると、

 友に、唯との出会い、そして、彼女を『推す』ことになったこと、そして、彼女を好きになってしまったこと、
二人の関係を、すべてを話した。

 友にすべてを話終えた悠。

「友、ごめん。俺、おまえの気持ち知ってたのに」
 と頭を下げた。

 だまって悠の話を聞いていた友は、悠の肩に手を
掛けると、

 「そうか、わかった。なんか、そんな感じがしてたんだ。
 ずっと前から、『野生のカン』的な? って言うか、
おまえ等の距離感? 雰囲気がさ自然体っていうかね、
悠、話してくれてありがとうな。
 俺、悠ならいいや」と言った。

 「友……ありがとう」
 と悠は呟き無言で頭を下げた。

 「いいってことよ。気にするな頭あげろよ。
 それより、YUIちゃん心配だな。
 リハーサル終わったら様子見に行けよ」
 
 「ああ、そうするよ」

 と言うと二人はリハーサル室に戻り
リハーサルを再開した。
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