君との約束
千春が帰り、ふたりきりになる悠と唯。
嵐のような展開で、疲れた様子の唯を見た悠、
「ごめん、俺が来たから疲れただろ?
キヌコさん、もう寝なよ。ほら寝室に行って」
「大丈夫ですよ。千春の料理と悠さんの顔見たら
元気になりました」
「だめだよ。ほら、行くよ」
と言うと悠は唯の手を引いて寝室に入ると、唯をベッドに寝せて布団をかけた。
そして、悠はベッドサイドに座った。
悠は部屋の灯りを消すとシェードランプをつけた。
うっすらとしたオレンジ色の照明が室内を照らす。
悠は、布団の中に寝ている唯の頭を撫でながら、
「キヌコさん、ごめんね。俺、キヌコさんのこと全然
見えてなかった。 いつの間にか『女優のYUI』のことしか見てなかった。
季里也に言われてハッとしたよ。
この前、疲れてるのにキヌコさんが俺の部屋に来て
くれた理由もわかったよ。今日の俺と一緒だ。
『会いたいから会いに来た』『顔見ることで、安心
したい』だからだよね?」
悠の言葉を聞いた唯はゆっくりと頷いた。
「悠さん……私も、最近自分のことが見えなくなってた。
周りのことばかり気にして、悠さんの気持ちとか考えないで季里也君のこばかり話して私こそ、ごめんなさい」
「お互い様だね……」悠が優しく微笑んだ。
「ねぇ悠さん……」
「ん? 何?」
「私……最近、よく思い出すの」
「何を?」
「悠さんと出会った頃のこと。
悠さんの部屋でお掃除したり料理したりメモ用紙に
色んなことを書いてた頃のこと。毎週、悠さんのお宅に伺うのが楽しみで」
「俺もだよ。キヌコさんが残しくれるメモを読みながら、キヌコさんが作った料理を食べるのが楽しみで。それが俺にとっては癒される時間だった」
「いつの間にかふたりの関係が変わってしまっちゃったんですね」
「キヌコさん、後悔してるの?」
「後悔? 後悔はしていません。
私は悠さんに『推して』もらえる限りこの世界で輝いていきたいって……
この世界に入る時に決めたんですから」
「キヌコさん……俺も『君を全力で推す』と言ったこと
後悔はしてない。
そして、君との約束……忘れてないから」
と悠が言った。
「じゃあ、約束果たせるまで、一緒に頑張りましょ。
今度は疲れないように……」
「……」黙り込んだ悠。
「悠さん?」
悠は、唯にかけてある布団をはぐると唯の隣に潜り込んだ。
「悠さん? 今日は……その私……」
慌てる唯。
悠は慌て顔の唯を見ると、
「大丈夫。今夜は何もしない。っていうか……
できないでしょ。だから、腕枕だけさせて」
と言うと、自分の腕を伸ばした。
ニコッと微笑む唯は、伸ばされた悠の腕に自分の頭を 乗せた。
「腕痛くないですか?」
「大丈夫だよ。もう遅いから眠って。
俺、ずっとそばにいるから……安心して眠って……」
と悠が囁いた。
互いに向き合う二人、
灯りが消され、二人は眠りについた。
悠と唯、
互いの存在が『癒し』となり、 『パワーの源』であり、
そして『大切な存在』であることがわかった夜だった。
次の日の早朝、
悠は、唯のマンションを後にした。
テーブルの上には……
キヌコさんへ
ごはん、ちゃんと食べてね。
それから、しっかり休んで、今夜、また顔見に
来るから。悠
とメモ用紙が貼ってあり、そして朝食が準備してあった。
唯は悠からの伝言を見てクスッと笑うと、
「ありがとうございます」と言った。