君との約束

穏やかな時間と充電完了!

 「もしもし、千春?」
 「唯どうしたの?」
 スマホ越しに千春の声が聞こえた。

 「昨日は、色々とありがとう」
 「いいよ。それより、悠さんとは話出来たの?」

 「うん」
 「それは、よかった。
 これからは辛い時は倒れる前に話すんだよ」

 「ありがとう千春、千春のその優しさに本当に
助けられてる。
 悠さんも、お礼言ってたよ」

 「きゃ~何言ってんのよ。照れるじゃん」
 「千春、落ち着いたらごはん行こうね、じゃあ……」

 「うん、じゃあね」
 唯は千春との会話を終えると、
 「よし!」と言うと何やらごそごそとし始めた。
 
 その日の夜、ピンポーンと唯の部屋の玄関のインター フォンが鳴った。

 唯がドアを開けると悠が立っていた。
 深く被った帽子とメガネ、そして、大きなバックを
肩から下げた姿。

 唯を見て微笑むと、
 「キヌコさん、体調どう?」と聞いた。

「はい……ぐっすり寝たらこの通り、元気になりました!
 事務所がスケジュール調整してくれて、今週いっぱいお休みもらいました」

 「そうか、よかった」
 と安心顔の悠。
 唯が悠の手を取り、リビングに連れて行く。

 「キヌコさん、これって……」

 リビングのテーブルに並ぶ料理の数々。

 「息抜き、ストレス発散、もろもろで作ってみました」
 「だから、そのエプロン姿なんだ」

 「凄いな~」料理の数を見て驚く悠。

 「悠さん、明日からツアーでしょ?
 だから、食べても安心メニューです」
 そう言うと唯はニコッと笑った。

 「キヌコさん、ありがとう。
 俺、お見舞いに来たのに……」
 と感激する悠。

 「悠さん、座って一緒に食べましょ」

 二人は椅子に座ると唯が作った料理を食べ始めた。

 「旨いな~キヌコさんの料理はいつ食べても旨いな。
 ヘルシーなのに、食べ応えがある。
 最高だよ。前もよくライブ前には高たんぱく低カロリーの食事作ってくれてたよね」

 「だって……『連絡帳』にカロリー低め、栄養価はあって
太らない食事、明日からライブとか、書いてありました
から」

 「そうだったかな?
 そんなこと書いてたのか……忘れたよ。
 ねぇ、キヌコさん一つ聞いてもいいかな?」

 「何ですか?」
 「キヌコさんって何で俺に対していつまでも敬語なの? 同じ年なのに」
 
 唯は、箸を置き悠の顔を見ると、

 「それは、最初は仕事上、悠さんは契約者様だった
から……それからは、う~ん、『敬語』じゃなくなると自分に『甘え』がでちゃうからでしょうか?
悠さんに頼り過ぎると思うから。
 それに『悠』とか今更言えないっていうか。
 悠さんだって、私のこと『キヌコさん』って呼んでるでしょ? それと同じかな?」

 「同じかな?違うような気がするけど、でもこれからも
敬語で話すの?」
 
 「う~ん、少しづつ、そのうちタイミングで呼びますよ。
 ということで……」と唯が笑った。
 
 「はい、はい、はい」と悠も笑った。
 
 食事を済ませ話を続けるふたり、
 
 「キヌコさん、ごめんね。
 今日はそろそろ帰るよ」
 と言うと悠は椅子から立ち上がり荷物を持つと玄関に歩いて行く。
 唯も悠の後をついて玄関に歩いて行った。

 「こっちこそ、悠さん疲れてるのに来てくれて
ありがとう。
 明日からのツアー頑張ってください」

 「ありがとう。キヌコさんも無理しないであと数日、ゆっくりしてなよ。
 元気になったら、撮影再開だと思うから」
 「はい。充電完了しましたから大丈夫です」

 「も~キヌコさん、充電はまだ完了してないよ」
   
 悠は唯の唇に軽くキスをした。
  
 悠は自分の唇を唯の唇から離すと、
 「はい、これで充電完了」
  と呟き優しく微笑んだ。
  
 悠の綺麗な瞳に見つめられた唯は、恥ずかしさで
下を向く。
 
 そんな唯を心の底から愛おしく思う悠。

 「ライブツアー終わったら連絡するから
また……会おう……」

 「はい」と呟く唯。

 「じゃあ」と玄関を出ようとした悠が振り向き、
  
 「キヌコさん……俺、もし今度写真とか撮られても、
その時はもう、フェイク記事とか書かせないから……」 
と言い残しニコっと笑って出て行った。

 翌日より『RAIN』の全国ライブツアーが始まった。
 久しぶりの『RAIN』のライブに歓喜する人々で、
会場は連日満員、観客動員数も上がり続けてた。
  
 スポットライトの下で光輝く『RAIN』
 友、心、良、翼、そして悠の五人、悠のダンス、歌声はいつになく皆の心を惹きつける。
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