君との約束

『作品の内容が……』

 伊藤監督がテーブルを指差し、五人に席に座るように
促した。

 悠、唯、季里也、友、水月の五名をはじめとする
スタッフ陣も着席する。

 伊藤監督から作品の内容を聞かされる五人。

 「それでは、今からこの作品の説明を行う。
 この作品は、ざっくりと言うと『男女の恋愛物語』
なんだが、 『略奪』『嫉妬』『切愛』『渇愛』が盛り込んで
ある」

 台本を開いた友が呟いた。
 「冒頭のシーン、エグくないですか?」
 伊藤見る友。

 「まぁ、そうだな」と伊藤が答える。
 「あら、私はこの映画の軸になると思うけど」
 と水月が言った。
 
 それは、季里也扮する男性と唯扮する女性の
官能シーンから始まるものだった。

 伊藤が五人を見るとゆっくりと話し出した。

 「まず、設定としては季里也と唯が恋人同士、
悠君と水月が恋人同士、そして友君が唯に想いを寄せる
幼馴染の役だ。
 唯と季里也の前に悠君が現れることで、二人の関係が崩れていく。
 季里也の唯に対する愛情と人格が次第に豹変していく。
 一方、悠君の恋人役の水月も悠君が他の女性に想いを
寄せてることを知り、嫉妬して唯に危害を与えようと
する。
 悠君と唯が互いを想えば思うほど、二人に色んな試練が襲いかかる。
 失意の唯に優しく手を差し伸べたのが幼馴染の友君だ。
 唯を巡って季里也と悠君と友君が略奪し合うっていうものだ。
 唯は三人の男性に愛される役だ」と監督が映画のあらすじを話した。

 台本を開きながら黙り込む五人。

 「まぁ、そりゃあ驚くよな。
 今まで、『正統派』『純愛』『爽やかさ』が売りの五人
だから。
 いきなり、『真逆』の物語を演じろって言われてもな。
 でもな……俺は、君達ならこの役をどう演じるか、
この目で見たいんだよ。
 ハードで、シビアな現場になることは重々承知して
いる。
 それに、その……君らの所属事務所にもこの作品については承諾をもらっている。
 ただ、唯がこの役をやり遂げられるかどうかが一番の
課題なんだが……」

 と伊藤が唯の顔を見て言った。
 悠、季里也、水月、友が一斉に唯の顔を見た。

 下を向いていた唯は顔を上げると、
 「監督、私やります! 夢を実現するために」
 と言った。

 季里也と水月と三人で同じ作品に出演する夢、
そして、悠の前に女優として立つ夢、
一緒に作品を創る夢。

 唯はその実現に向けて新たな決意をしたのだった。
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