君との約束

第十章

『耐えろ、耐えなきゃ、言いきかせろ』

　「唯ちゃん、本当にいいの？」
　と水月が言った。
　「うん。大丈夫だから、思いっきりやって！」
　と唯が答える。
　
　「はい。じゃあ、リハーサルいきます。
　カメラ、アクション」
　
　パシッ、水月が唯の頬を叩く。
　「痛っ」と声が漏れる唯。
　「ごめん、大丈夫？」と心配する水月。
　「大丈夫だよ。平気……」と笑う唯。
　
　今日は、水月が唯の元に怒鳴り込んでくるシーンの
撮影からスタートする。
　悠、季里也、友が次の撮影のため、二人のシーンを
モニターで見ていた。

　「じゃあ、本番行きまーす」と声が響く。
　「カメラ、アクション」
　カメラが唯と水月を映す。

　パシッ……
　「この泥棒猫」
　水月が唯の頬を平手打ちし唯の身体を後ろに押す。
　そして、唯に罵声を浴びせる。

　それを見た男性陣、
　「あちゃ～あれ、マジで叩いてるよ」
　と友が言った。
　「もろにいきましたね」季里也が呟いた。
　「確かに女性同士の喧嘩は凄いな……」
　と悠も驚いた。

　唯と水月の身体を張った芝居に刺激を受けた悠、
季里也、友。

　「俺たちも負けられませんね」
　と季里也が悠と友の顔を見て言った。

　「カット～、オッケーです」
　と声がかかる。

　「唯ちゃん、ごめんね」
　水月が唯を抱き上げる。
　「大丈夫？」

　「うん、大丈夫」とふらつく唯。

　スタッフとメイクさんが駆け寄ってくると、
「YUIちゃん、ほっぺ少し赤いから、冷やそうか」
　と保冷剤を当てられる唯。
　
　耐えろ、耐えなきゃ……と自分に言い聞かせる唯。

　身体を張る役者たちにも、伊藤監督は容赦しなかった。

　明日から、いよいよ　季里也、悠、そして友との
絡みのシーンの撮影が連日行われることを伊藤が唯に伝える。

　「唯……明日から、男性陣との絡みのシーンの撮影に
入る。
　心身ともに追い込まれてしまうと思うが、唯、おまえ
なら演じ切れると俺は信じている。彼らも全力で演じて
くれると思う。だから心配するな」

　「はい……わかりました」と返事をする唯。

　「唯、大丈夫？」と心配する水月。
　「何が？」

　「だって、季里也と悠さんと友さんとそれぞれと濡れ場を演じるわけだし季里也となんか、段々エスカレートして
いく様子の描写が凄かったし……」
　
　「もう、やるって決めたから最後までやり抜くよ。
　いい作品にするために」

　唯の様子を見た伊藤が悠と季里也を呼んだ。
　
「明日のそれぞれの撮影についての説明だが」
　
　伊藤の説明を聞いた悠と季里也は顔を見合わせた。
　
　「監督、そこまでするんですか？
　YUIちゃん大丈夫ですか？」
　と季里也が言った。
　
　「いい作品を撮るためだ……」
　と伊藤が悠の顔を見ると悠に聞いた。
　
　「悠君はどう思う？　できるか？」
　　
　深い溜息をついた悠、
　
　「わかりました。やります……」
　「それでこそ、主役だ！」と喜ぶ伊藤。
　
　「悠さん、いいんですか？」
　と季里也が尋ねる。
　「ああ、いいんだよ……」と答える悠。

　悠の表情を見た季里也、
　　　
　「悠さんがいいって言うなら、俺も本気で
いかせてもらいますね」
　と本気の目をした季里也が言った。