君との約束
  今から、季里也との濡れ場のシーンの
 撮影が始まろうとしていたところに
 突然現れた悠の姿に激しく動揺する唯。
  季里也の顔を見ると言った。
  「季里也君、どうして悠さんがここにいるの?」
 
  「YUIちゃん、聞いて……これには理由があって……」
  「理由って何ですか?」と語気を荒げる唯。
 
  「昨日、監督から俺と悠さん呼ばれて、
 今日の撮影は、午前中に俺と絡んで夕方からは悠さん
 とのシーンを撮影するって言われて、加えて悠さん
 には、その……俺とYUIちゃんの絡みのシーンを
 見せたいって言われてさ。
  いささか、それは……って言ったんだけど
 『監督が絶対!』ってきかなくて、だったらせめて
 スタッフだけは全員女性にしてくださいって頼んで」
  と季里也が言った。
  
  唯は語気を弱めることもなく
  「ただでさえ、神経すり減らしてるのに、 裸のシーン
 の撮影を他の男性(ひと)に見られるのはイヤ……
 絶対嫌だ」
  と言うと、唯はスタジオを飛び出し楽屋に入ると
 ドアにカギを掛けた。
  
  スタッフが慌てて唯の後を追いかけた。
  「YUIちゃん、YUIちゃん開けて」
  とドアを叩くスタッフ。

  唯は耳を塞ぐとドアを背に座り込んだ。

  スタッフが伊藤の元に戻って来ると、
 
  「監督、YUIちゃん中から鍵かけちゃいましたよ」
  と困惑するスタッフ。
 
  「やっぱり、無理ですよ。こんな設定で撮影なんて」
 と季里也が呟いた。
 
  「そうか……でも、YUIの感情と表情がこの作品には
 どうしても必要なんだがな」と伊藤が言った。
 
  「俺、YUIちゃんのところ行ってきます。
  何とか説得してみましょうか?」
  季里也がそう言いかけた時、悠が声を掛けてきた。
 
  「監督、俺が行ってきます。
  主役として、彼女と話をしてみます」
  「そうか……」伊藤が答える。
 
  「じゃあ、俺も一緒に行きます」
  と季里也が悠に言った。

  悠は季里也の顔を見ると、

  「いや……いい、俺一人で行くから、季里也はこれから 
 撮影するシーンのことだけに集中して……」
  と言うと悠は一人、唯がいる楽屋に歩いて行った。
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