君との約束
 伊藤監督は悠と唯の元にやって来ると、
 「さあ、今日最後の撮影だ。
 唯、悠君にすべてを委ねろ」と言った。

 唯を優しい瞳で見つめる悠、唯も悠を見つめると
小さく頷いた。

 二人の表情が一気に変わった。
『役者 悠』そして 『女優 YUI』の姿

 伊藤監督をはじめ、スタッフ全員が息を飲む。

 照明が落とされ、セットの中が暗闇に変わる。
 ベッドサイドに灯る微かな灯りが、二人の姿を
浮かびあがらせる。

 「カメラ……アクション……」
 スタジオ内に響く声。

 YUIの頬に手を伸ばす悠、悠の手がYUIに触れると、
YUIが微かに震える。

 悠の優しい瞳がYUIを包み込むと、
二人の唇が互いに重なった。

 暗闇に映し出される二人の影、ゆらゆらと揺れる
ふたりの影、スタジオ内は静まりかえったまま。

 ゆっくりと流れる時間……

 悠がYUIの身体を引き寄せると、着ていた上着を
ゆっくりと脱がせると、薄明りの中に映し出される
白い肌。

 彼女の身体を見つめる悠の切なく儚い表情。

 彼女の身体に触れると同時に力強く抱き寄せると、
悠の表情が一変した。

『嫉妬した心』を一気に表出するかのように
彼女を激しく抱きしめる。
 彼女の瞳を見つめると、彼女の首に手を回し激しく唇を奪う。
 全身で『愛情』を表現する悠。

 徐々に感情を高めていく悠、内心唯は戸惑いながらも、必死に悠に『YUI』としてくらいついていく。

 ふたりの甘く切ない吐息が、激しく荒々しさに変わっていく。

 その場にいるすべての者が二人の芝居に……
ふたりの世界観に……吸い込まれていくのを感じた。

 二人の絡み合うシルエットは美しくすべての人々を魅了する。

 「カット~、唯、悠君、俺は大満足だ~」 
 と伊藤の声が響き渡る。

 周りのスタッフからふたりへ拍手喝采がおこった。

 こうして、『悠とYUI』は見事に『嫉妬』と『渇愛』を
演じ切った。
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