君との約束
夜の焼き肉屋で
『ふたりの絡み』を撮り終えた悠と唯は、
伊藤監督に近くの焼き肉屋に連れて行かれた。
監督がビールグラスを片手に
「いや~よかったよ。よかった」
と二人の芝居を絶賛した。
「ありがとうございます」
と照れながらお礼を言う悠と唯。
「朝は、どうなることかと思ったけどな」
「その……すみませんでした」
とすまなさそうに頭をさげる唯。
「はは、結果オーライならそれでいいさ。
でもな~あの『見つめ合う』ことも出来なかった
唯がな~『大胆な濡れ場』を演じる日が来るとは。
俺は、嬉しくて涙が出るぞ。
な~悠君そう思わないか?」
酔っぱらった伊藤が悠の肩を叩きながら言った。
「え……ええ? え~そうなんですね」
と返答に困る悠。
「も~監督、飲み過ぎですよ。
明日は、リハーサルのみだからいいけど」
と唯が伊藤の手からグラスを取り上げた。
「ははは……はぁ~」
と言うと寝てしまった伊藤。
伊藤を見ながら悠と唯が顔を見合わせクスっと笑う。
焼き肉を焼きながら悠が言った。
「キヌコさん……撮影、大丈夫だった?」
「はい……正直無我夢中で、必死で悠さんについていったというか」
「そうなんだ。俺はキヌコさんには悪いけど、朝、季里也とキヌコさんの絡みのシーン見せられて『物凄く嫉妬』
した。
顔は平静を装ってたけど季里也を殴りたかったよ」
と笑いながら言った。
「ははは……それは芝居で」と呟く唯。
「わかってるよ。それくらい君の芝居に引き込まれたってことさ。
多分、季里也も俺と同じ気持ちだったと思う。
だから、俺……本番では絶対『YUI』には負けられないって思ったんだ。
それに、季里也とじゃなくて俺との方がいいって思われるようなシーンにしたかったから。
俺たち、見事に『伊藤監督の策略』にはまってしまったんだよ」
「そうか、『伊藤監督の策略』か……」
と言うと唯はお皿に置かれた肉をパクリと口に入れた。
「美味しい……」と言う唯。
「旨いな……」と笑う悠。
寝ている伊藤の顔が一瞬だけ緩んだことに気づかない
ふたり。
焼き肉を食べ終えた唯と悠は、寝落している伊藤を
両脇から抱えるとタクシーに乗せ、後部座席に伊藤と悠が
乗り込んだ。
窓を開け悠が言った。
「俺、監督ご自宅まで送るから、じゃあまた明日……
お疲れ様おやすみ……」
「はい、お疲れ様でした。おやすみなさい」
タクシーが唯の前から走り去った。
タクシーを見送る唯も、向きを変えると自宅に向けて
歩きだした。
空を見上げると星々がキラキラと輝いていた。