恋はレモンのように

上野、部活休むってよ。

 放課後の美術室……
 葉山が矢上を連れて教室に入って来た。
 川内をはじめ、美術部員が一斉に
立ち上がった。
 美術室をぐるっと見渡した葉山は正面を向くと、
 「あ~、知ってる人もいるかもしれませんが、
今日からに2週間、教育実習に来た矢上慎也先生。
 専攻は、勿論、美術……ということで、美術部の
補助もお願いしている。
 みんな、よろしく頼ますね」
 と優しい口調で話す葉山。

 「は~い。わかりました。先生~」
 元気よく返事をした部員たちは各自の制作に
とりかかる……。

 「じゃあ、矢上先生、適当に見て回って」
 「はい、わかりました。葉山先生……」
 そう言うと矢上は部員の制作の様子を見て回る。

 葉山が、川内のもとに寄って来て尋ねた。
 「あれ? 上野さんは? 
 姿がみえませんが……」
 絵筆を持った川内が……

 「なんか、わからないんですけど……
 今日、部活休むって……すごい形相で
さっき言いに来たんですよ……」

 「そうですか……。
 ところで、あなたの制作は大丈夫なんですか?」
 
 「はい、今日は、モデルがいなくても大丈夫な
箇所なんで……」
 「それなら、いいんですけどね」

 葉山と川内の会話を聞いていた矢上が、
川内の制作中の作品を見に近づいてきた。
 「ふ~ん、彼女をモデルに描いてるんだ……
あっ! 君は、確か二番目の……」
 矢上が川内に気づき、そう呟いた。

 「あ! あの時の美術館で……二番目?」
 川内も矢上に気づき呟いた。

 「なんだ……君達、知り合いなの?」
 葉山が二人に尋ねた。

 「いや~、私がバイトしている美術館に
女性と来られてて……ね! そうだよね!」
 「あ……はい」
 と返事をする川内。

 すると、女子部員が……
 「え~、部長、女性と美術館に行ったんですか?
私たちが誘っても行ってくれなかったのに~。
相手は誰ですか? 私たちの知ってる人?」

 美術室内がざわついた。

 「えっと、それは……」
 困った様子の川内……。

 「はい、はい、皆さん、この話はこれでおしまい!
制作を続けてください。それから、矢上先生も、波風を立てるような発言は
くれぐれも謹んでくださいね」
 葉山が優しく微笑んだ。


 「はい……。わかりました。すみません……」
 と小声になる矢上だった。
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