恋はレモンのように

最悪の続きは、まだあった。

 「はぁ~、もう最悪な一日だった」
 部活を休み、帰宅した夏は制服を着たまま
ベッドに倒れ込むとそのままスヤスヤと
眠ってしまった。
 
 「夏……夏……」
 彼女の耳元で彼女を呼ぶ声がした。
 横向きになりパチッと目を開けた夏……
 目の前には、彼女を覗き込む
至近距離の葉山のドアップ顔……。

 「先……生?」
 寝ぼけた状態の夏がそう呟く。
 「夏、具合でも悪いのか?
夏が部活休むって、初めてだから……」
 「え……っと、何でもないです。
ただ……」
 と呟く夏に、葉山は優しく微笑むと、
 「慎也のことだろ? アイツには
ちゃんと言っておいたから、心配いらないよ。
だから、明日からちゃんと部活休まずに
来いよ……」
 夏の頭をポンポンと叩くと葉山は
優しく微笑んだ。
 横を向いてベッドに寝たままの状態の夏……。
 葉山の大人な微笑みに、胸がキュンキュン
時めいているのがわかった。
 学校では、見せない葉山の顔……。
 二人だけの時だけに発する『夏……』
という声……。
 夏は、今日起こった最悪な出来事を
忘れかけていた……その時……

 ガラガラガラ……。
 葉山の家の二階の窓が開く音がした。
 「あ~、今日は初日だし疲れたな~」
 聞き覚えがある声が……
 「俊二のヤツから怒られちゃったな~
まぁ、大人しくしないと、査定に響くからな。
 ん? んんんん~」

 声の主が、窓から身を乗り出し、
夏の部屋を覗き込んだ。
 「俊二? 俊二~おまえそんなところで
何してるの? え? おまえは、上野夏。
え? 二人はそういう関係なの?」

 声の主は、言わずと知れた失礼男、
その名も矢上慎也……。

 「え?」
 と目を見開く夏……
 「あ……」
 と呟く葉山……
 
 ベッドに横たわる制服姿の夏……
 その横に座り込み、横たわる夏の
頭に手を置いている葉山の姿を見た
矢上は、
 「え? え? 俺はどうしたら……
とにかく、見なかったことにする……
じゃあな……」
と言うと慌てて窓を閉め、
シャ~っとカーテンを閉めた。
 
 慌てて起き上がった夏。
 立ち上がり頭を掻く葉山。
 「なんで?」
 「まずいな~、慎也、間違いなく
勘違いしたよな……」
 「私、ちょっと隣に行ってきます」
 と言うと、夏は凄い勢いで階段をおりて
行った。
 
 夏は履物を履くとドアを開け、
急いで隣の家に入って行った。

 階段をおりてきた葉山に夏の母親が
尋ねた。
 「あら、俊二くんもう帰るの?」
 「はい。夏、元気みたいだったから」
 「そう。あの子最近、変なのよ。
急にニタニタしたり、はぁ~って溜息ついたり、
最悪~って叫んだり……大丈夫かしら?」
 「大丈夫ですよ。女子高生は色々とあるんですよ」
 「それもそうね。まぁ、俊二君が学校にいるから
心配ないけど……それより、夕食、食べて行かない?」

 「そうしたいんですけど、従弟が来てるんで」
 「そう、じゃあ、今度、その従弟さんも連れて
いらっしゃいな」
 夏の母親が微笑んだ。

 「はい。ありがとうございます。夏が許可してくれたらお伺いしますね」
 そう言うと、葉山は玄関から出て行った。
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