恋はレモンのように
 「ハァ、ハァ、ハァ……。つ、捕まえた」
 夏が矢上の上着の袖を掴んだ。
 夏に袖を掴まれた矢上は、夏のを見下ろすと、
 「おまえ、意外と足速いんだな……で、
俺を捕まえてどうするの?」
 彼の言葉にハッとした夏が慌てて掴んだ
手を離した。
 「大丈夫だよ……安心しな」
 矢上が呟くと、下駄箱から専用のサンダルに
履き替え、誰もいない廊下を歩く矢上と夏は、
美術室に到着する。
 「あれ? 誰もいないじゃん……」
 矢上が夏の顔を見た。
 「あ……うん。今日はその……希望者だけ?
自主練的な……?ヤツ……」
 「え? 何それ、部活じゃね~のかよ。
なんだよそれ~。それならそうと早く言えよ!
も~、俺、家でまったりしたかったのに~」

 「べ・別にいいじゃない……。
 第一、あなたがついてきたんじゃない……
その、葉山先生に……」

 「は~ん、さては、学校デートだな?
だめだよ……誰もいない教室で、教師と教え子の
禁断の恋だなんて~」

 「だ、だから、その件は違うって……。
昨日、ちゃんと説明したでしょ?」
 慌てる夏にクスッと笑う矢上……

 「慎也、からかうのは、そのへんにしておけ」
 教室の出入り口に葉山が立っていた。

 「ウェ~ン、先生~。あの人が……」
 葉山の後ろに回り込む夏……
 「ちょっと、おまえ……」
 「べぇ~だ!」
 葉山の後ろであっかんべ~をする夏。
 「くっそぉ~。へん!」
 矢上は口を尖らした。

 「あれ? 矢上先生もいらしてたんですか?」
 川内が教室に入ってくると、その後ろから、
ひとみが入ってきた。
 「今日は、自主練は上野さんを入れた三人だな」
 葉山が確認をした。

  葉山の後ろに隠れるように立っていた夏。

 「夏? どうしたの?」
 ひとみが矢上の顔を見上げた。
 それに気づいた矢上は、
 「村尾さん、どうしたの? 僕の顔になんか
ついてますか?」
 と優しく微笑んだ。
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