恋はレモンのように
 土曜日の朝、
 校舎内は静まり返り、
 体育館やグラウンドから、音楽室から
聞こえてくるかけ声や楽器の音……。

 渡り廊下には風が吹き抜け、
いつもとは違う学校の風景……。

 美術室からも、絵筆がキャンパスに
擦れる音が聞こえ、絵の具に含まれる
油の匂いが風にのって廊下まで漂って
くる……。

 今日も、いつもと変わらぬ、
週末の部活の風景……のはずだったが。

 夏の隣に座るひとみが、小声で
話かけた。
「ね~、夏、矢上先生となんかあった?」
「は? なにもないよ」
「そう?
 ……にしては、怒ってるよ。
 顔が……」
 ひとみがクスッと笑った。

 ガタッ。
 夏が椅子から立ち上がるとひとみに向かって、
 「怒ってなんかないよ……イライラするだけ」
 と大声を出した。

 その声に驚き、手を止めた川内、葉山、矢上。
 「夏……? ごめん……」
 ひとみが夏に声をかけた。
 「あ、ひとみちゃん、こちらこそごめんね。
 大声だして……部長も、先生もすみません」
 と言うと、夏は椅子に座り直し、
絵筆を握ると黙々とキャンパスに色を重ねていった。
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