恋はレモンのように

二人だけの夕食

 「おじゃま……します」
 部屋着に着替えた夏が、
葉山の家のリビングに入って来た。

 リビングを見渡すと……
わかってはいるものの、葉山の姿は見えなかった。

 「夏、座って待ってろよ」
 キッチンから、矢上が声をかけた。
 夏は、無言でソファーに座った。

 トントントントン……
 リズミカルな包丁の音が聞こえて来た。
 
 夏はソファーから立ち上がると、
キッチンに立つ矢上に、
 「何してるの?」
 と聞いた。

 「サラダ……特製の……」
 と包丁で野菜を切りながら答える矢上。
 「へぇ~、そんなことできるんだ」
 「俺、結構料理得意なんだぜ。
 下宿先のマダムにもよく作ってたしさ」

 「下宿先のマダム?」
 「あ、まぁ、いいじゃないの。
ほら、出来たぞ……おばさんのカレーも
いい具合に温まってるから食おうぜ」

 「いただきます」
 矢上と夏は両手を合わせると軽く頭を下げた。

 「うっそ、何これ……」
 「これ? だから特製サラダ」
 「お洒落すぎるんですけど……
レストランで出てくるような色とりどりの
野菜に……ローストビーフ、それに、
ゆで卵がぶった切ってある……」

 「ぶった切るって……夏、言い方、
でも、旨いだろ?」

 夏がサラダを一口食べると、
 「おいしい~」
 と笑顔になった。

 矢上の前で満面の笑みを見せた夏。
 夏の笑顔を見た矢上も満更でもない
表情になった。

 「おばさんのカレーも旨いよな、
俊二も食べたかったろうに」
 矢上がそう呟いた。

 「ね~、矢上は彼女とかいないの?」
 夏の言葉にカレーを噴き出しそうになる矢上。

 「おい、おい、なんだよ突然」
 「だって、学校の女子には人気が
あるみたいだし……」
 「え? おまえ気になるの?」
 「ち、ちがうよ。ただ、聞いてみただけだよ。
だって、いつものらりくらりだから」
 
 「だって俺、今教育実習中だよ。生徒となんか
あったら大問題でしょう。ちなみに今の状況も
十分問題だけどね……」

 「え? なんで……あっ、そうか……」
 「そういうこと……」
 「で、俺に彼女がいるかどうかの話ね。
今はいないよ……」
 さらりと答える矢上……。
 「へ、へぇ~、いたんだ彼女」
 「なんだその言い方」
 「だって、矢上性格に難ありでしょ?
やっぱりふられたんだ……」

 「ち、ちがうよ。色々あるんだよ。
俺にも……さ。それより、おまえは
どうなんだよ」

 「どうって?」
 「部長の川内と梶本恭介……、
そんでもって俊二だろ?」
 「え? それは……」
 「やっぱりな……おまえさぁ、
人を真剣に好きになったことないだろ?」

 「え……はい、その通りです……」
 「何……今夜はやけに素直じゃん」
 「矢上もじゃん……」
 互いの素直さに驚くふたり。

 「取り合えずさ、続きはメシ食ってからな。
それから、夏、俺のこと矢上と呼び捨てに
するな」
 と言うと矢上が微笑んだ。
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