恋はレモンのように
 ザーザーザー……。
 辺りの音をすべてかき消すように
激しい雨音が降り注ぐ。

 レインコートを着た夏が、植木鉢を
抱えて玄関に運び入れる……。
 残りの植木鉢を取りに再度玄関を
開けると、びしょ濡れの矢上が立っていた。
 
 「あ、矢上っち……。ずぶ濡れじゃん」
 呟く夏に……
 「おまえこそ、そんな姿で何してんの?」
 「あ~、お母さんから頼まれたの。
 植木鉢を玄関の中に入れるのと、
物干し台を横にしてって……」
 「おばさん達も……帰れないのか?」
 「おばさん達もって……葉山先生も?」
 「そうなんだ。飛行機が欠航したってさ」
 「そっか……」
 
 ビュ~。ゴゴゴゴ、ゴ~。
 風が玄関に吹き込んだ。

 「とにかくさ、俺も作業手伝ってやるよ」
 「わ~、助かる。でも、矢上っちずぶ濡れだよ」
 「今更、レインコート着ても遅いしさ、
大丈夫、二人でやればすぐ終わるよ」
 
 「うん……」

 二人は、大雨の中、庭の植木鉢を玄関の中に
運び終えると、風が吹く中、力を合わせて
物干し台を横に倒した。

 ザーザーザー……
 雨音で声がかき消されながら、
 夏が矢上に大声で言った。

 「助かった~。ありがとう……ございましたぁ」
 「ああ、風引くなよ」
 「うん……」
 
 そう言うと矢上と夏はそれぞれに家の中に入って行った。
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