恋はレモンのように
 「ご馳走様~」
 夕食を済ませた夏は自分の部屋に
入って行った。
 「珍しいな……夏がすぐに自分の
部屋に行くなんて……どうしたんだ?」
 「なんか、クラスメイトから頼まれごと
をされたみたいで……明日までに完成
させないといけないみたい……」
 「ふ~ん……」
 夏の両親はそう言うと天井を見上げた。


 カチカチカチ……
 時計の音が夏の部屋に響く。
 カリカリカリ……。
 真剣な夏の眼差しで矢上のイラストを
描く夏……。

 ベッドの上には、広げられた
スケッチブックに描かれた矢上の姿……。
 時折、その矢上の姿を見つめながら
イラストの下書きを描く夏。

 カチカチカチ……
 いつしか時計の針は午前零時をさしていた。


 コンコンコン……。
 葉山の部屋をドアをノックすると、
珈琲を入れたマグカップを両手に持ち
矢上が部屋の中に入って来た。

 「担任もつと、夜遅くまで大変だね。
はい、珈琲……」
 矢上がマグカップを葉山に渡した。

 「サンキュー」
 マグカップを受け取る葉山に、
矢上が言った。

 「あれ……? 夏のヤツまだ起きてるの?
ほら……隣、まだ電気ついてるぜ」
 部屋の窓から見える夏の部屋の灯り……
 「そうだな。今夜はまだ起きてるみたいだな」
 「あれは、また、夜更かししてるな~」
 「そうだな……今夜はきっと徹夜……
 かもしれないな……」
 「え? なんで?」
 「さぁ、なんとなく……そう思っただけだよ」
 葉山が微笑んだ。

 「はぁ~、出来た~。もう一時じゃん」
 机の上には、特徴をよくとらえた
色付きの矢上のイラストが描かれた色紙……

 そして、午前一時を回ったころ……
夏の部屋の灯りが消えたのだった。
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